爆撃機の銃座

事の始まりはひとつの質問からだった。

> 『メンフィス・ベル』等の戦争映画でよく出てくる側面銃座ですが、実際そんなに役に立つものだったのでしょうか。

お察しの通り「役に立たない」からB29あたりで消えていったんだろうね。
第2次大戦中、側面銃座を重視したのは日米、しなかったのは英独ソだ。
おっと、機体側面に機銃を装備した機体としては独のMe410があるがこれはゲテモノなので例外とする。
さて、側面銃座の意味合いだけどまず迎撃機が側面から来た時の対処ならびにブリスター式の場合は上方、下方、後方に若干の射界を有する事が挙げられる。
反面、胴体が太く成らざるを得ず機体重量が大幅に増す。
ブリスター式の場合は空気抵抗も増すから弊害はなお大きい。
おまけに左右へ撃つとなると乗員2名を要するから...
いやはや百害あって一利無しとは側面銃座の事だ。
考えてもみてよ。
機体上部に連装銃塔を付けとけば1人の乗員で左右どちらへでも2門撃てる。
ところが側面銃座は殆ど単装。
だから2人乗りながら各1門だ。
左右同時に来た時?
そんな殆どあり得ない状況に対処する為、側面銃座を設置したとするなら設計者なり発注者なりをすげ替えた方が国益となろう。
だいたい側面から迎撃機が接近する事自体、あまり起こり得ない状況なのだ。
なにしろ爆撃機と迎撃機の双方が時速300キロ以上で常に運動し続けているんだよ。
それが射的100〜200mでうまく接近するのは不可能だと言える。
どうしても行き過ぎるか、出遅れるか、高度が合わないか、軸線の同調が取れないかで射撃機会を逃してしまう。
機銃を撃ち続けながら爆撃機に接近すれば良いと思われる方はもう一度「装弾数の話」を読み返して欲しい。
戦闘機の装弾数はそれほど多くはないのだ。
よって爆撃機の側面銃座は無用の長物なのである。

と、説明したら...

> 側面銃座が有効でないのは良く判るのですがその他の銃座でもっとも有効なのはどこでしょうか?

との質問が来た。
なるほど。
それではまず銃座を機首、機体上部、機体下部、尾部、主翼の5カ所に区分して比較しよう。
「主翼に銃座なんてあるの?」って声が聞こえて来そうだが92式重爆(日)やPe8(ソ)、P108(伊)、Bv222(独)ではちゃんと装備されているのだ。
えっ、B35(米)も主翼に銃座があるって?
そりゃあるだろう、機体すべてが主翼なんだから。
更に...

> 僕としては最後に装備された機首下部が有効でなく射界の広い上部と下部の銃塔が有効だと思うのですがいかがでしょうか?

確かに射界が広ければ有効性は高いと言える。
だけど「どの角度からも平等に敵機が来襲する」と言う物でもない。
例え射界は狭くとも重要な銃座はある。
それが尾部だ。
ヘリコプター以外の航空機は常に高速で運動しており双方が高速運動しながら射撃するので短時間に多くの射弾を浴びせねばならない。
大抵の場合、迎撃機は機首に火器を装簿し接近しながら撃つ。
となれば爆撃機が前方から射弾を受けるのはすれ違う時だけであり爆撃機の機首銃座が役立つのも「すれちがう時だけ」となる。
まあB17G型みたいに横まで射界がある銃塔ならそれなりに役立つ事もあるが。
さてそれでは仮に火器の有効射程が200m、発射速度毎分600発と仮定しよう。
双方が5360km/hですれ違うと相対速度は720km/hで1秒に200m距離が縮まる。
と言う事は1秒しか撃てないんだから火器を2門装備していたとしても射弾数はたった20発にしかならない。
爆撃機の機首銃座にしても条件は同じで「すれちがいざまの空戦」は双方が短時間、火器を発射するだけで実害は至って少ないのである。
それに比べ追尾戦は...
その気になれば残弾が無くなるまで追いかけて撃ち続けるのだから恐ろしい。
よって爆撃機乗りは尾部銃座が欲しくなるのである。

さて...
リンゴが木から落ちるのを見てニュートンは万有引力を発見した。
以来、テポドンが落ちるわツングースカ隕石が落ちるわコロニーが落ちるわ株価が落ちるわで巷では大騒ぎである。
さて、前述した通りヘリコプター以外の航空機は常に高速で運動している。
これは運動し続けていないと落ちてしまうからでその要因が万有引力にある事は語るまでもない。

とまあ枕はこの辺にしとくとして航空機が最も高速を出せるのは降下時である。
自分の重量を速度に変換できるからね。
「じゃあ速度が低下するのは?」と尋ねれば上昇時と誰でも答える。
その通りだ。
今日は一見、当たり前の事を書き連ねてきたがこれが尾部銃座と大きな関わりを持つ。
仮に爆撃機と迎撃機の水平速力が同速で爆撃機の方が「迎撃機が現れたら任務なんて放り出し基地に向かってまっしぐらに逃げちまおう」と考えていたとする。
さあ、同高度で会敵した。
迎撃機がいくら追いかけても捕捉できないだろう。
だが迎撃機がより高い位置に占位し降下攻撃をかけてきたら?
水平飛行では同速でも実際の速力は迎撃機の方が速いのだから捕捉される可能性がでてくる。
零戦52甲型の水平最高速力は559q/hだけど降下最高速力は740q/にもなるのだ。
よって多くの場合、迎撃機は自機と同速以上の目標に対しては後上方から攻撃する。
できればの話だけど。
先に高々度に占位してなきゃ後上方から攻撃できず、それには事前情報と高々度性能が物を言う。
まあ「戦闘機より速い爆撃機」ってのはそう多くないし「迎撃機とであったら任務放棄して即、遁走」なんて爆撃機も数少ないので「何が何でも後上方」ってもんでもない。
だけど後下方となるとこれは大変だ。
なにしろ上昇しながら接近しなくちゃならないんだから。
「後下方は視界が効かない死角だから恐ろしい」と爆撃機乗りは思うが迎撃機乗りとしても「よっぽど水平飛行で速力差がなけりゃ後下方で追いつくなんて無理」なのである。
後上方攻撃だと559q/hの零戦52型が740q/hに速くなるって事は後上方攻撃だとそれなりに遅くなるって事なのだ。
航空機によって上昇力は随分と差があり最大水平速力と上昇力は比例してないので740q/hの迎撃機が後上方攻撃だと常に559q/h程度に速力低下する訳じゃないけどね。
まあいずれにしても迎撃機がよほど優速でなけりゃ後下方攻撃は難しい。
だけど...
大して速力差がないのに後下方から攻撃する手段がひとつあるのだな。
斜銃である。
今日は斜銃の話じゃないのでこれは置いとくとして、基本的に迎撃機は高速爆撃機に対しては後上方、低速爆撃機に対しては後方から攻撃する。
どんな時も後上方から攻撃した方がいいんじゃないかって?
いやいや、尾部銃座を装備している爆撃機はほんの一部だが上部銃座は殆どの爆撃機が装備している。
だから後上方からの攻撃はほぼ確実に反撃を喰らうのだ。
よって爆撃機が尾部銃座を装備しておらず迎撃機が優速なら後方から攻撃した方が良い。
迎撃機の爆撃機に対する攻撃法には前方、後上方、後方、後下方の4種があるが、ここでひとつ迎撃機と爆撃機の速度差による攻撃法の差をまとめておこう。
速度差が少ないもしくは爆撃機の方が早い場合から並べてみよう。
1.前方のみ
2.前方、後上方
3.前方、後上方、後方
4.全て可能
つまり爆撃機が遅ければ遅いほどあっちこっちに銃座を配置せねばならない訳だ。
そして銃座を増やせば増やす程、速度は遅くなってゆく。
困ったもんだね。

とまあ随分、尾部銃座で話をひっぱったが「爆撃機を守るには何がなんでも尾部銃座」って訳ではない。
まず第一に「迎撃機に追いつかれない速力」と「いざとなったら任務放棄できる戦術的柔軟性」があれば捕捉されないんだから銃座なんかひとつも要らない。
この路線で究極を求めたのが英国のモスキートだ。
実際、モスキートの損害率は驚くほど低い。
僅か0.63なのだからランカスター(2.13)やハリファックス(2.28)、ウェリントン(2.80)と比べて段違いだし脆弱で有名なスターリング(3.81)やブレニム(3.62)と比べると1/6なのである。
でもねえ...
「戦闘機が追いつけぬ高速爆撃機」と喧伝された末、ボコボコにされてリタイアしたSB2、ブレニム、Do17、96式陸攻だって最初のうちは本当に損害率が低かったのだ。
いかな名機でも敵が対応策を講じたらいずれ神通力が失われる。
もし戦争が1年長引いたらモスキートだってMe262にボコボコにされていたろう。
Me262の登場が1年早かったとしても同じ事だ。
モスキートは大変、運が良かったのだ。

さて、話を戻そう。
尾部銃座ではないが「尾部銃座に近い物」がある。
上部銃座だ。
ただし通常の1枚垂直尾翼だと上部銃座は真後ろに撃てない。
自分で自分を撃っちゃうからね。
そこでH型尾翼の登場となる。
これなら完璧ではなくとも若干はカバーできる。
こうして開発されたのがDo17や96式陸攻、ハンプデンで皆、胴体が凄く細い。
更にこれらの機体は揃って後下方射界を重視している。
96式陸攻は引込式垂下銃座、Do17はゴンドラ式、ハンプデンは胴体後部をクビレさせて後下方銃座の射界を広くした。
胴体後部をクビレさせ射界を広げる工夫は日本陸軍の99式双軽にも見られるがゴンドラ式の発展と言えなくもない。
まあ「後方の上半分は上部銃座、下半分は下部銃座の射界を広げるから尾部銃座が無くても大丈夫」って発想だったんだろうが実際、そう上手くは行かなかった。

それにしても...
当時の爆撃機乗りが後下方の死角を嫌うのは相当な物だった様で尾部銃座や下部銃座を全く装備しない銀河やモスキート、ハボックが活躍する第2次世界大戦後半とは全くおもむきを異にする。
やっぱり「本当に危険なのはどこか?」はやってみなくちゃ判らなかったんだろうね。
天山やアベンジャーが後下方銃座を備えたのも杞憂の現れだから随分、後まで尾を引いていたと言えよう。
いずれにせよ「大型の低速爆撃機には尾部銃座が不可欠」との機運が高まり各国はこぞって新型爆撃機の開発に乗り出した。

それでは尾部銃座の利害得失を考えて見よう。
これまで尾部銃座の必要性について随分書いてきた。
迎撃機の追随を許さぬ高速爆撃機ならともかく、そうでなければ是非、装備したいのが尾部銃座だ。
でもそう簡単に装備できないのだ、これが。
だって人間が乗って火器を操作するんだよ?
それなりに大きなスペースを必要とする。
まして尾部は航空機でもっともタイトな場所だ。
「空を飛ぶ」のが飛行機の目的なんだからコントロールの要となる垂直及び水平尾翼に囲まれた尾部に機銃座を設けるなんざ航空機設計者として「できればやりたくない事」の筆頭となろう。
それでも尾部銃座を設置するとなれば一定以上の大型機に限られる。
仮に97式艦攻に尾部銃座を装備すると考えて見て欲しい。
ちょっと空想しただけでとんでもない有様になっちゃうでしょ?
だから尾部銃座の登場は「尾部銃座を装備可能な大型機」の登場によって幕が開くのだ。
まあ、コンパクトな尾部銃座ってのも考えられなくもない。
97式重爆が装備したリモコン銃座がそれだ。
なにしろ人が乗らないんだから機銃の装備スペースだけで済む。
だけど、それでうまくいくなら世界中の爆撃機がリモコン式尾部銃座を装備しただろう。
結局、当時のリモコン式は実用性が低く日本陸軍は本格式尾部銃座を装備した100式重爆や4式重爆を開発する事になる。

それでは少し寄り道をして様々な理由により銃座が二転三転した爆撃機の話をしよう。
題材は「B25」である。
ドーリットル空襲の立て役者として名高いB25は空冷のR2600エンジンを装備する米陸軍の双発爆撃機でレイアウトは前から機首、前部、爆弾倉、後部、尾部ブロックによって構成されている。
当初、B25は機首ブロックに銃座(爆撃手が操作)、前部ブロックに操縦席(2名)、後部ブロックに側面銃座、尾部ブロックに尾部銃座が配置されていた。
装備火器は全て単装7.62mmで側部銃座と尾部銃座は無線士と航法士が操作した。
だがこの配置はB25とB25A型だけでB型からは大きく変化する。
当時としては画期的だった尾部銃座だが寝そべらなければ撃てず実用性が甚だ低かったのだ。
幸いB25はH型尾翼だ。
前述した如く、かつては機体上部と下部に銃座を設ければ尾部銃座がなくても後方射界をカバーできるとの考えが蔓延していた。
そこでC型では尾部銃座を廃止し後部ブロックへ上部銃座と下部銃座を設置した。
火器は双方とも12.7mm2門である。
狭い爆撃機の胴体だ。
当然、側面銃座は撤去された。
まあ無用の長物の側面銃座だからね。
無くなったって困りはしない。
その後、機首銃座が12.7mmに強化されたり前方に12.7mm固定銃が1門追加されたりしたがあまり大した変更では無いので省略する。
機首部に抜本的な変更が加えられたのがG型で76.2mm砲1門と12.7mm固定銃2門が装備された。
続いて機体全部に渡る火力強化がなされたのがH型である。
まず機首が76.2mm砲1門と12.7mm4門となり機首側面にも12.7mm4門が装備された。
これらは全て攻撃用の火器だ。
防御用の火器としては尾部に12.7mm2門の銃座が復活した。
今度の尾部銃座はちゃんと座って撃てる。
結局、上部銃座と下部銃座では本格的尾部銃座の代用とならなかったのである。
尾部銃座の登場によって不要になった下部銃座は姿を消した。
更に上部銃座も後部から前部に移設された。
上部と下部の銃座が無くなった後部はがら空きとなったかって?
とんでもない。
なぜか無用の長物、側面銃座が復活したのだ。
そして次に機首ブロックの武装を撤去し12.7mm1門と爆撃手に代わったJ型が登場し最終主力生産型となる。
ねっ?
B25の武装変遷は大変でしょ?
まあこれは極端なケースかも知れないが爆撃機の防御火器レイアウトではどの国も皆、試行錯誤を繰り返したのである。

ところで大戦中に登場した爆撃機でもっとも防御火力が強かったのは何だろう?
多分、B29だろうな。
旋回機銃を12.7mm12門と20mm1門装備してるからね。
後方に対する火力ではB24も凄い。
尾部銃座と下部銃座に加えH型尾翼だから上部銃座も撃てるので12.7mm6門になる。
門数だけならハリファックスの8門が多いけど7.7mmじゃ問題外。
さて、大戦中の各国重爆が装備した尾部銃座だけどいつ頃から装備されだしたか追ってみよう。
まず最初はと...
ソ連のTB3かな。
当初は装備してなかったがエンジンをM34に換装したTB3M34Rから装備されだした。
鉄のカーテンの向こう側なので正確な日付は判らないが1930年代中盤だろう。
カーテンのこっち側で早かったのは英国。
1935年のサンダーランド飛行艇を皮切りにウェリントン、ホイットレーなどの重爆が続々と開発されていった。
これら英大型機は最初っから尾部に7.7mmを4門を装備している。
ハリファックスの時点では問題外となる7.7mmも戦前は充分な火力だった。
単に登場が早かっただけでなく英国は「尾部火力重視の国」なのである。
米国は...
意外に遅く1939年7月初飛行のB23から。
この機体にしても寝そべって撃つ方式だったから実用的とは言い難かった。
日本陸軍で最初に尾部銃座を装備したのは1939年7月に完成した97式重爆1型乙だけどこれはリモコン式で実用性が低い。
射界も僅か上10度、下20度、右15度、左15度しかない。
なおリモコン式全ての実用性が低い訳ではない。
B29の上部及び下部銃座はリモコン式だが恐ろしく実用的だった。
要は「科学技術の劣った国のリモコン式はダメ」と言うだけに過ぎない。
結局、日本陸軍の本格的尾部銃座は1941年3月制式化の100式重爆まで遅れる事になる。
日本海軍はと言うと...
なんと既に1931年に完成した91式飛行艇で尾部銃座を装備していたのだ!
でも生産機数1機じゃあ...
制式化されたと言っても実験機に過ぎないか。
やはり1938年1月に制式化された97式大艇がトップバッターだろう。
でもこれまたあまり多くは生産されていない。
そして1941年4月、尾部銃座を装備した本格爆撃機として1式陸攻が制式化されるに至った。
ねっ、尾部銃座ってのは1930年代後半から登場し1940年頃になってやっと一般化した結構、新しい兵器なのだ。
現代から見ると「装備してて当然」と感じるが当時としては画期的であり「無理をして取り付けた兵器」なのである。
特に改修で装備されたB17や97式重爆では。

確かに尾部銃座は防御の要である。
垂直1枚部翼で尾部銃座がなかったら後方から攻撃され「はい、それまでよ」となるからだ。
だが尾部銃座が装備されていたらどうであろう?
それでも後方から攻撃するだろうか?
状況にもよるだろうが後上方から攻撃する事が多くなるだろう。
降下攻撃なら速度が増すからね。
つまり尾部銃座は「なければ困る火器」だが存在した場合は「1番忙しい火器」ではない。
それでは「尾部銃座が存在した場合に一番忙しい火器」の上部銃座を語ろう。
大抵の場合、尾部銃座が無くても上部銃座はあるよね。
機首銃座(固定銃は除く)がなくても上方銃座はある。
下部銃座、側面銃座は言うに及ばずだ。
いや、あった...
キ74は尾部銃座(リモコン式)しかない。
「大抵の場合は」って書いて置いてよかった。
人はこうしてオトナになってゆくのである。
さて上部銃座だがこれは銃座が「前方もしくは後方のどちらに向いているか?」もしくは「銃塔式か?」で細分化される。
当然の事だが旋回式でグルグル回る銃塔式が一番、有力だ。
射界が広いからね。
前方向は機首銃座と似たような物である。
装備した例もドイツ機くらいであまり多くない。
後方向は垂直尾翼の形状で射界が変わるが爆撃機にとって一番、当たり前の防御火器となる。
特に尾部銃座や銃塔式上部銃座を装備できない小型爆撃機にとっては。
シュツルモビクや99艦爆、97艦攻、SDBにソードフィッシュ。
およそ世界中の小型爆撃機がこぞって後方向に上部銃座を装備した。
上部銃座は「基本中の基本」の銃座なのである。
航空機の構造上、装備し易い位置だしね。
しなかったのはモスキートと単座機くらいだ。
いや、装備しなかったからこそモスキートは名機足り得たと言えよう。
まあ、迎撃機の追随を許さぬ程の優速があってこその話だが。

次に下部銃座を見るとしよう。
後下方は爆撃機の死角だが迎撃機にとっても接近しずらいと前述した。
そして斜銃の登場により後下方からの攻撃が可能になったとも書いた。
かくして大戦後半になると後下方で下部銃座と斜銃が凄絶な死闘を繰り広げる。
ところで下部銃座だが上部銃座と同じでこれも銃塔式、前方向、後方向に区分される。
ちょっと違うのは「操縦席や垂直尾翼やら射界の障害となる物体が殆ど存在しない事」と「人間を逆さにすると頭に血が上って気絶してしまう事」である。
ただし射界障害が存在しないのは結構な話だが着陸時、機体下部に膨らみがあると事故の元になる。
よって機体下部に銃塔式銃座を装備する時は隠顕式とする場合が多い。
「頭に血が上る」のはもっと切実な問題だ。
どうしたって頭を上にして銃塔を操作しなければならない。
どうやって?
まず窮屈な姿勢で射手を銃塔に押し込める。
もはやこれは拷問に近い。
B17やB24、96式陸攻の銃塔がこれだ。
次にリモコン式で銃塔を操作するのがB25やブレニム。
これだと射手は辛くないが操作が難しく敵機に当たらない。
そこで銃塔式を諦めもうちょっと楽な姿勢を考えるとゴンドラ式もしくはクビレ胴体式になる。
ゴンドラ式はJu88やHe111などの独爆撃機やB17の初期型で採用されクビレ胴体式は99式双軽やハンプデンで採用された。
でもねえ...
寝そべるって事は射手の体全体が的になるって事で射手としちゃ実に面白くない。
高射砲の破片だってバンバンとんでくるだろうし。
それに銃塔式と違って射界がかなり狭い。
まあ無理して下部銃座を装備するより尾部銃座の射界を広くして対応した方が実際的と言えるんだろうな。
やっぱり。
ひとつ変則的な下部銃座としてB17Gが装備したアゴ銃座がある。
でもこれは機首銃座の一種とも言える。

それでは機首銃座に話を進めるとしよう。
機首銃座は「すれ違う時だけ撃てる火器」でありさして重要な銃座ではない。
なにしろ「すれ違いながらの撃ち合い」ってのはとんでもなく射弾数が少ないのだから。
でもね、射弾数が少ないってのは一概に悪い事ばかりでもないんだよ。
だって戦果は少ないけど損害も出ないんだから。
「じゃあ迎撃したって意味無いじゃん。」と言わないで欲しい。
大戦後半の連合軍爆撃機の様に重爆が列をなして来襲してくる場合、1機に対して「すれちがい攻撃」をするとすぐに次の敵が現れるから何度も「すれ違い攻撃」を繰り返す事になり最終的にはかなりの戦果(もしくは損害)に結びつくのだ。
ましてや「機首にだけ火器がなくその他は厳重な防御火器で守られている場合」だとすれちがい攻撃は相当、有効な手段となる。
他にも機首からのすれ違い攻撃が有効な場合がある。
迎撃機に対して爆撃機が優速な場合だ。
どうしても追いつけない高速爆撃機でも正面からのすれ違いなら一撃だけは加えられる。
ちゃんと敵の正面前方で待ち構えられればだが...
それに待ち構えたとしてもモスキートが相手だと無理だな。
正面に迎撃機がいたらモスキートはヒラリとかわしてどっかへ逃げちゃうもん。
編隊で飛んでくるB29に対しては有効だろう。
と言うかB29の昼間高々度爆撃に対し日本の殆どの迎撃機は正面攻撃に頼らざるを得なかった訳だが...
さて、こうして「さして重要ではないが無ければ無いでちと困る機首銃座」はどんな爆撃機に装備されたのだろう?
どっちかと言うと「機首銃座を装備しなかった爆撃機」を探した方が早いな。
実に多くの重爆が機首銃座を装備しているのである。
そりゃそうだ。
装備しやすいんだもん、位置的に。
大抵、機首には爆撃手席があるから操作を兼任とすれば人員的にも困らない。
つまり「わざわざ機首銃座を装備」したんではなく「爆撃手席がそこにあるからついでに機首銃座とした」って訳なんだね。
まあ最初はそんなだったにしても「正面からのすれちがい攻撃」をドイツ空軍が盛んに繰り返し損害が激増してからはB17G型にアゴ銃座が付けられたりB24の機首銃座が連装動力銃座になったりして火力強化が図られた訳だが。
えっ、なぜB29に機首銃座が無いかって?
だってあれは爆撃手席と操縦席が一体型のコックピットじゃん。
もう手狭だから機首銃座まで付けられないよ。
でも御安心を。
何しろ上部に4連装、下部に連装の12.7o銃塔が前を向いて睨んでいる。
機首銃座こそ無いが前に向かってこれだけ撃てりゃなんの心配もいらない。

それではこの辺で銃座の話を締めくくるとしよう。
爆撃機の銃座には機首、機体上部、機体下部、尾部、主翼、側面の6カ所があり重要度に差があると述べてきた。
それじゃかいつまんで有効な順に並べて見よう。
1.尾部銃座 最も有効、ただし装備しにくい
2.上部銃座 2番目に有効、装備しやすいので一般的
3.下部銃座 斜銃装備迎撃機や高速迎撃機に対しては有効
4.機首銃座 あまり有効ではないが装備しやすいので一般的
5.側面銃座 全く有効ではない
6.主翼銃座 全く有効でない上に装備する事自体が困難なキワモノ
3と4は「迎撃機の能力によりけり」で変化するので注意して頂きたい。
まあ、論外の6はともかくとして1から5まで全部装備したのが米軍のB17やB24である。
機体全部がハリネズミでまさに空の要塞だ。
でもねえ〜。
いらぬ所にまで無理に火器を装備したんだから見た目は要塞でも実体は「いかがな物か?」って具合だった。
そこでB29では1〜3までしか装備しなかった。
その後、B36で4が復活するがこれが「銃座による防御の頂点」で米の爆撃機は以降、B47、B52、A3、B58のどれも1しか装備せずB1やB2に至って銃座が皆無となってしまった。
やはり爆撃機にとって必要な銃座は1〜4になるんだろうな。
ここでソ連の爆撃機に目を転じて見よう。
果たしてどんな銃座を装備しているのだろうか?
戦略爆撃機ではB29のコピーだったTu4(ブル)に続くM4(バイソン)、Tu16(バジャー)、Tu20(ベア)のいずれもが1〜3に装備してる。
ただし軽爆のIL28は1だけだ。
これらは米のB36に対応する「銃座による防御の頂点」と言えよう。
でも米が1のみになったのと同じくソ連もTu22から1のみとなった。
更にブラックジャックからは銃座が皆無となっている。
いち早く銃座の全廃に踏み切ったのは英国だ。
軽爆のキャンベラは言うに及ばず戦略爆撃機のV3シリーズですら銃座を装備していない。
先見の明と言うかなんと言うか...
さすがモスキートを生んだ国としか言いようがない。
脱帽だ。
そう。
身も蓋も無いと思うかも知れないが銃座なんかに頼ってちゃいけないのだ。
爆撃機にとって最良の防御は防弾と速度にある。
ちなみにB1の運用開始は1986年、ブラックジャックの部隊配備は1987年だ。
他国は45年かかってモスキートに追いついたのである。
そんな次第で「銃座なんて無けりゃ無い方が良い」が結論となるんだがそれでも「どれば有効か」って事になると1の尾部が最優先(構造上の問題があるから付けられない場合が多いが)、2と3あたりが次善となる。

なお、空対空ミサイルの登場も銃座の絶滅に大きく関わっているのだが...
話が広がり過ぎちゃうので今回は触らないで置くとしよう。


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