これからデカブツ戦車の話をしよう。
プレイヤー諸氏はデカブツ戦車と問われどんな戦車を想起するだろうか?
有名な所ではまずキングタイガー(ティーガー2型でもケニッヒスティーゲルでもローヤルティーガーでも王虎戦車でもどれでもお好きな名前でどうぞ)。
こいつの車体長は7.26mで重量は69.7tである。
よって車体長9.03m、重量188tのマウスに比べるとデカブツとは言い難い。
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キングタイガー |
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マウス |
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しかしマウスにしても重量ではトップを争うものの図体の大きさではソ連の傑作多砲塔戦車T35(車体長9.72m)に負けるのだ。
しかし上には上がいる。
第2次世界大戦初頭、見かけ倒しの張り子の虎として名を馳せた仏軍超重戦車シャール2Cなどは車体長が10.27mもあった。
だがなんと!
それを更に上回る車体長の巨大戦車が大戦中に実在したのだ。
「どの国で?」と聞きたくなるであろう。
しからば私は「もちろん日本で!」と答える。
だが日本陸軍ではない。
当然、日本海軍に決まっている。
世界最大の戦艦大和、世界最大の潜水艦伊400、世界最大の61p魚雷など、日本海軍は「図体の大きい兵器」が大好きなのだ。
かくして誕生したのが特3式内火艇(重量28.2t:47mm48口径砲搭載)で車体長は10.3mもあった。
フロート付きでの話だけどね。
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特3式内火艇 |
でもフロートを外すのは実戦で敵と相対した時なんだから、それまではずっとフロート付きで行動する。
よってフロート付きの状態は普通の状態と言えよう。
輸送艦に搭載する時もフロート付きである。
2等輸送艦の搭載力は95式軽戦車(車体長4.30m)の場合14両、97式中戦車(車体長5.55m)の場合9両、特2式内火艇(車体長7.50m)の場合7両であった。
95式軽戦車14両の車体長総合計は60.2mなので97式中戦車だと10両搭載出来そうに思えるが、半端な隙間はどうにもならないので9両となったのであろう。
この様に「輸送艦に何両の戦車が搭載できるか?」は割り算だけでは決まらないのであるが、割り算だけで見ても特3式内火艇は5両しか搭載できないのだ。
かくも凄まじくデカブツの特3式内火艇であるが、車高もまた異様に高かった。
車高の高さで天下に名を轟かす背負式二段砲塔戦車SMKの3.35mやマウスの3.63mを凌ぐ3.82mは戦場の通天閣と言えよう。
かくも高い視点で戦場を見下ろせば「絶景かな〜」と唸りたくなる事請け合いである。
この素晴らしき特3式内火艇のプラモ、作って見たいと思わない?
実はあるのだ。
特3式内火艇のキットが。
1/700のWL(ピットロード)だけどね。
同一スケールのタミヤの特2式内火艇、アオシマのタイガーやパンターなどと並べればデカブツ戦車の迫力を満喫できる事間違い無しだ。
虫眼鏡が必要かも知れないが。
さて、それでは特3式内火艇の車体について解説しよう。
特3式内火艇の全長が10.3mなのは前述したけど、フロートを外した場合でどれくらいあると思う?
残念ながら「フロートを外した特3式内火艇の全長」はどの資料にも記載されていない。
しかしパンツァー誌254号40ページには特3式内火艇の1:65側面図が記載されている。
これを定規で測ると112o、これを65倍するとなんと7.28mになる。
恐るべき事に特3式内火艇の全長はキングタイガーよりチビッと大きいのだ。
更に凄いのは全高。
戦車ってのは車体の上に砲塔を載せており車体高+砲塔高が全高となる。
特3式内火艇の砲塔は1式中戦車とほぼ同一だが車体高は1式中戦車の約1.55mに対して2.52mもある。
1式中戦車の全高は2.38m(つまり砲塔高は0.83m)なので、両車を並べると1式中戦車の全高は特3式内火艇の車体高にすら及ばない。
特3式内火艇の車体高はマウスの車体高2.62m(パンツァー誌179号の1:75マウス側面図より算出)に準ずる程なのである。
キングタイガーに匹敵する長さとマウスに準ずる高さの巨大な車体に、47o砲を装備したちっちゃな1式中戦車の砲塔がちょこんと載っている。
それが特3式内火艇なのだ。
それでは着脱式展望塔を外した特3式内火艇の全高がどれだけになるか算出してみよう。
2.52+0.83=3.35
マウスには及ばないがSMKより大きいのだからデカブツとは言えるだろう。
デカブツなのだから乗員も多く6名にも達する。
そしてこのデカブツ、ただデカイだけが取り柄ではない。
なんと耐圧構造なのである。
よって潜水艦に搭載でき最大深度100mまで潜れた。
この機能のせいで生産効率が物凄く悪く、たった19両しか生産されなかった。
いや、こんなデカブツを19両も量産した事の方が凄いのかも知れない...
それでは何故、特3式内火艇を潜水艦に搭載しようとしたのであろうか?
賢明なる読者は既にお気づきの事と思うが、特3式内火艇は奇襲上陸作戦の為に開発されたのである。
通常の上陸作戦は輸送船や揚陸艦を連ねて目的地に接近する。
夜陰に乗じて接近し夜明けと共に上陸するのが定法だが、よっぽどの高速船を揃えねば前夜の航空哨戒で発見され奇襲効果は無くなってしまうだろう。
例えば米軍のLST(戦車揚陸艦)は最高速力12ノットだから、払暁と薄暮を除く闇を10時間として夜間には120浬しか接近できない。
これに対し1式陸攻22型は3200浬以上の航続距離をもつ。
まあ往って探して帰ってだから哨戒範囲は1000浬程度になるが。
いずれにしても24ノットの高速船だって上陸前日の航空哨戒で発見される事は間違いない。
よって水上艦艇による奇襲上陸は太平洋方面ではあまり見られないのである。
欧州では英仏海峡やシチリア海峡などで頻発したけれどね。
さて水上艦艇による上陸作戦が航空哨戒で封ぜられるとなると...
潜水艦を使用しての奇襲を模索する事になる。
日本海軍は戦前から「潜水艦による奇襲上陸」に着目していたが、本腰をいれたのは「ミッドウェー海戦」で敗退してからだ。
なぜミッドウェー攻略に失敗したか?
制空権の奪取に失敗したからだ。
ならば確実に制空権を奪取できる様に航空機と空母の増産に励めば良い。
だが日本海軍はそう考えなかった。
制空権が無くとも上陸でき奇襲効果が絶大な水中陸戦隊を思いついたのである。
かくして建造されたのが兵員110名と特殊上陸艇2隻を搭載する丁型潜水艦(途中で設計変更され物資輸送用になっちまったが)であり、これをバックアップする為に特3式内火艇が開発された。
考えてもごらん。
「敵など来るはずない」と思っている戦線後方へ戦車を伴った日本軍が突如として現れるんだから。
小規模兵力といったって効果は絶大だ。
絶大であって欲しい...
これは願いだ...
でなけりゃ大きな潜水艦を何隻も作って、耐圧構造の無茶苦茶生産効率の悪い戦車をわざわざ開発してとんだ散財だ...
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