1942年8月、ガダルカナル島に上陸した米第1海兵師団はボルトアクションのM1903小銃装備(ガダルカナル島戦末期に投入された第2海兵師団や陸軍の師団はM1自動小銃装備)にもかかわらず、日本軍を相手に激戦を繰り広げ一歩も退かなかった。
それに対し1943年2月、米第34歩兵師団はM1自動小銃を装備していたのにカセリーヌ峠でボルトアクション小銃装備のドイツ軍にアッパレ大敗走を遂げたのである。

M1自動小銃(米国)

確かに米海兵隊は精鋭だ。
しかしガダルカナルに上陸した時点では初陣なのでさして米陸軍師団と能力的に差があったとは考えられない。
だとすれば「一般的には優秀と思われがちな自動小銃」を装備している米第34歩兵師団の方がもうちょっと頑張れそうに思うのだが、あにはからんや結果は上述の如しとなった。
上記2例だけで「ボルトアクション小銃の方が自動小銃より優秀」と断じる事はできないが、僕としては「自動だろうがボルトアクションだろうが大した差はない」と思っている。
それでは小火器の話を少しばかりするとしよう。

軍事資料データベースでも書いたが小火器の性能を決定するのは弾薬と銃身長である。
同じ弾薬を使用するなら銃身長の長い方が初速が速くなりパワーが増す。
例えば英軍が使用したSMLE小銃(重量3.9kg)は銃身長640mmで739m/sだが同じ.303ブリティッシュ弾(7.7×56:口径mm×ケース長mmを表す、以下同じ)を使用しながらも銃身長を475mmに切りつめたNo5−1小銃(通称ジャングルカービン:重量3.25kg)では727m/sに低下する。
日本軍が使用した38式実包(6.5×50)の場合、38式歩兵銃(銃身長797mm、重量3.95kg)では765m/s、38式騎兵銃(銃身長419mm:重量3.34kg)では708m/sであった。

38式歩兵銃(日本)

パワーが低下したのだから反動も低下したのだろうか?
そんな事はない。
逆に反動は大きくなった。
同じ弾薬を使用しているのだから基本的に反動は同じ様に見える。
ところが銃身が短くなった為に小銃の重量が小さくなり、発射反動の抑えが効かなくなってしまったのである。
なら銃身を長くして小銃の重量を増加させるのが「良い小銃」なのだろうか?
兵隊がみんな「力持ち」で長い銃身を持て余さない程の「大男」揃いならそれも良いかも知れない。
でもそうは行かないから程々の長さと重量で適度な許容範囲の反動の銃が「良い小銃」となる。
民族によって若干の体格差はあるが極端な差にはならないので、ブルパップ銃などの例外を除くと小銃の銃身長は自ずから決まってくる。
となると小銃のパワーは弾薬によって左右される事になる。
基本的に小銃用の弾薬は弾頭とそれを撃ち出す装薬で構成されており「同じ弾薬を同じ銃身長の火器で発射」するならばパワーは大体、等しくなる。
こうしたパワーを示す指標として初速と弾頭重量が挙げられる。
初速が同じなら弾頭重量の大きい方がパワーも大きいし、弾頭重量が同じなら初速の大きい方がパワーが大きい。
更に弾頭重量に代わる指標として口径を使う事もできる。
口径が大きい方が質量が大きいのは当然であろう。
だが一般的に口径の大きい弾薬の方が弾頭重量が大きいと言えるものの、同一口径であっても時代の趨勢によって大きな差が生じる場合もある。
それではそうした例について若干、説明しておこう。

第1次世界大戦以前、各国の小銃は初速よりも弾頭重量にパワーを求めた。
例えば米軍の場合、M1903小銃用として開発された30−03弾(7.62×63)は弾頭重量14.2gで初速700m/sであり日本軍が30式小銃用に開発した30年式実包(6.5×50)は弾頭重量10.4gで初速700m/sだった。
ところが後世になると弾頭重量より初速に関心が高まり米軍は同じ7.62mm弾で同一ケース長ながら弾頭重量9.9gで初速820m/sの30−06弾、日本も同一口径、同一ケース長で弾頭重量9g、初速765m/sの38式実包に移行する。
同じケース長の薬莢で撃ち出しても弾頭重量が軽いと初速はかなり速くなる。
よって初速の高低だけでパワーを判定する事は出来ない。
それでは如何にして小銃のパワーを判定するのが良いだろうか?
弾頭重量(もしくは口径)と初速で比較するのが一般的だがケースサイズで比較するのも良い方法である。
ケースサイズはケース長とケース太さから容量を算出すれば良い。
それではケース容量だけで比較して良いのだろうか?
残念ながらそれでも充分ではない。
必ずしもケース一杯に装薬が充填されている訳ではないし装薬の質的差もある。
とりあえず主力小銃弾薬(口径×ケース長×ケース太:容量)を列記してみよう。

米: 7.62×63×12.01:7121 (30−06弾)
独: 7.92×57×11.94:6230 (8mmモーゼル弾)
ソ: 7.62×54×12.37:6517
英: 7.7 ×56×11.68:5915 (.303ブリティッシュ)
日: 7.7 ×58×11.89:6339 (99式実包)
日: 6.5 ×50×11.35:5100 (38式実包)
伊: 6.5 ×52×11.43:5304

一般的には第2次世界大戦時の小銃弾薬は米独ソが三傑で、日英の7.7mmがこれに続き日伊の6.5mmは後塵を拝すと言われている。
でも上記の数値では日本の99式実包の方が独の8mmモーゼル弾よりケース容量が大きい。
なぜだろう?
これには理由がある。
日本陸軍では大正期、小銃及び軽機関銃用、重機関銃として6.5mmの38式実包を使用してきた。
だが6.5mm弾では重機関銃用としていかにも頼りない。
そこで92式重機関銃の採用と共に重機関銃の口径を7.7mmに拡大した92式実包が量産される様になった。
重機関銃用なんだから92式実包はハイパワーである。
かくして日本陸軍は6.5mm弾と7.7mm弾を混用する事になったのだが、これは補給面で甚だしく不合理である。
よって小銃と軽機関銃も7.7mmに拡大する事になったのだが、92式実包は小銃で使用するには余りにもハイパワー過ぎた。
仕方ないので日本陸軍は92式実包と同じサイズで装薬量を少なくしリム形状を変更した新弾薬として99式実包を制定し、これを撃つ為に1式重機関銃を開発するに至った。
こうした理由により99式実包はケース容積の割りにローパワーなのである。
初速で見ると8mmモーゼル弾を使用するKar98kが760m/sなのに99式実包を使用する99式小銃は730m/sでしかない。
ましてや99式小銃の場合、戦後の一時期、自衛隊に装備された時、米軍の供与の30−06弾仕様に薬室を改造したところ、強度不足でかなりの銃が壊れてしまうと言う障害も発生した。
この事からも99式実包が三傑より低パワーだと言える。

お試し版はここまでとなります。
全て収録したフルバージョンは弊社通信販売にてご購入いただけます。