第2次世界大戦で最初に撃墜を果たした英軍機は海軍のスキュアであった。
以降、英国の艦上戦闘機は世界の七つの海を股にかけて熾烈な戦いを繰り広げた。
本稿はその足跡を辿る事を目的としている。
第1節 開戦時
1939年9月の第2次世界大戦勃発時、英海軍空母搭載機は以下の通りだった。
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ソードフィッシュ雷撃機×42機
スキュア艦爆×18機 |
アークロイヤル |
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ソードフィッシュ雷撃機×36機
シーグラジエーター艦戦×12機 |
グローリアス |
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ソードフィッシュ雷撃機×18機
スキュア艦爆×8機
ロック艦戦×4機 |
フューリアス |
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ソードフィッシュ雷撃機×9機 |
ハーミス |
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ソードフィッシュ雷撃機×24機 |
カレイジアス |
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ソードフィッシュ雷撃機×18機 |
イーグル |
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なんと艦戦はたったの16機(しかも4機は前方に機銃を撃てないロック!)しかいない。
これは当時の英海軍がスキュア艦爆(これにしたって26機しかいないが...)に戦闘機としての任務(ちなみに第2次世界大戦に於ける英軍機の初撃墜はアークロイヤルの803飛行隊のスキュア:マッキューン大尉による)を兼用させていた為である。
(よって空母戦記2ではスキュアを艦爆ではなく艦戦に類別している。なお開戦時の英海軍艦上戦闘機をシーグラジエーター×12機、スキュア×18機、ロック×6機の総数36機とする資料もある。いずれにしたって異常に少ない。)
でもまあこれじゃあ流石に寂しいと思ったのであろう。
イーグルなどは臨時編成でシーグラジエター3機を搭載(当時、地中海に於ける唯一の艦戦部隊となった。臨時編成なので搭乗員のうち2名は雷撃機乗りである)している。
この3機で2ヶ月間にイタリア機11機を落としたそうだから面白い。
後に正規の戦闘機小隊が配属されたのでこの臨時小隊は解散したそうだが。
まあすったもんだした挙げ句、1年後の1940年9月時で英海軍の艦戦はシーグラジエーター×15機、スキュア×33機、フルマー×30機の総計78機に増えている。
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ブラックバーン スキュア |
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グロスター シーグラジエーター |
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でも日米海軍に比べると純然たる戦闘機の数はまだまだ少ない。
その後、マートレット(米国のF4F)やらシーハリケーンやらファイアフライやら機種が色々増えてにぎやかになっていくのだ。
ちなみに英海軍のトップエースはエバンス少佐でスコアは16.5機(一説には6機)である。
彼はスコアの大部分をフルマーで挙げたとされている。
第2節 緒戦期
1939年9月の第2次世界大戦勃発時に於ける英空母の所属部隊は以下であった。
本国艦隊(スカパフロー) |
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アークロイヤル、フューリアス |
地中海艦隊(アレクサンドリア) |
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グローリアス |
海峡艦隊(ポートランド) |
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カレイジアス、ハーミス |
東洋艦隊(シンガポール) |
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イーグル |
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この時点での敵はドイツ海軍であってイタリア、日本は参戦していない。
ソ連、米国も中立国なので、当然の事ながらバレンツ海の船団護衛戦も発生しない。
ちなみに欧州に於ける英海軍の戦いは以下の4水域で繰り広げられた。
本国周辺水域、地中海水域、ノルウェー水域、大西洋水域
どこでどんな海戦が発生したかちょっとかいつまんで見よう。
本国周辺水域 |
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ケルベロス作戦、アッシャント海戦 |
中海水域 |
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マタパン海戦、カラブリア海戦、ペデスタル作戦など多数 |
ノルウェー水域 |
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ナルビク海戦、バレンツ海戦、北岬海戦 |
大西洋水域 |
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ラプラタ海戦、Uボート戦 |
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でも開戦時にはまだノルウェーも中立国なので、火花を散らす場所は本国水域と大西洋水域しかない。
そしてそこに所在する英空母は4隻であった。
だが早くも開戦から17日目にカレイジアスがU29に雷撃され戦没してしまう。
なおこの時点で最も憂慮すべき敵はドイツの通商破壊艦であった。
よって通商破壊艦を駆逐する為、多数のキラー部隊が編成されアークロイヤルはK部隊、ハーミスはM/N部隊に編入(ちなみに仏空母ベアルンはL部隊)され、イーグルはセイロン沖、グローリアスは紅海、フューリアスは北大西洋の航空哨戒に従事する。
1940年に入ると地中海艦隊のグローリアスが本国艦隊に編入(グローリアスの代わりに東洋艦隊のイーグルが地中海艦隊に編入されたが同艦が到着したのは同年5月)され「使用可能な4隻」となったが、同年4月にドイツ軍が発動したノルウェー侵攻(ヴェーゼル演習作戦)の矢面に立ち、6月にはグローリアスが独戦艦シャルンホルスト及びグナイゼナウに撃沈されてしまう。
そして同月、イタリアの参戦により地中海水域での戦いが勃発する。
(6月のノルウェー降伏によりノルウェー水域の戦いは一旦幕を閉じる。だが1941年6月のソ連参戦によってこの水域での戦いは再燃する。)
この時点で英海軍が保有している空母は4隻に過ぎず当面、地中海にある空母はイーグル1隻しかいない。
普通だったら大いに困る所だ。
だが英海軍は奮起し、アークロイヤルとハーミスを地中海に回航、イーグルと共にイタリア艦隊を襲いまくる。
更にフランス海軍艦艇がドイツに接収されるのを防ぐ為、カタパルト作戦を発動。
英空母はフランス艦隊も容赦なく襲いまくる。
7月5日 |
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伊駆ゼフィロ撃沈、ユーロ大破(イーグル) |
7月6日 |
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仏戦艦ダンケルク撃破(アークロイヤル) |
7月8日 |
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仏戦艦リシュリュー撃破(ハーミス) |
7月9日 |
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カラブリア海戦参加(イーグル) |
7月20日 |
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伊駆パンカルド撃沈(イーグル) |
そして同年8月、期待の新鋭装甲空母イラストリアスが就役(竣工は同年5月)し、翌月には地中海に到着。
かくして地中海を舞台とした激烈な航空戦の幕が切って落とされた。
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装甲空母 イラストリアス |
まったくこの時点でのイラストリアス登場は「待ってました!」とばかりに感ずる。
フォーミタブルの竣工が1940年11月、ビクトリアスが1941年5月、インドミタブルが1941年10月なのだが、続々と竣工したこれら4隻(装甲空母の5隻目となるインデファティガブルが1944年5月、6隻目となるインプラカブルが1944年8月の竣工なのでこの2隻は大戦末期しか活躍していない。)で第2次世界大戦の英空母陣は支えられたと言っても過言ではないだろう。
だって開戦時の英空母6隻中2隻がイタリア参戦前に戦没し、残り4隻中3隻が1942年末までに戦没しちゃうんだから。
ちなみに1941年9月時の時点で英空母が搭載していた艦戦はシーグラジエーター5機、フルマー58機、シーハリケーン34機、マートレット(米国のF4F)32機の総計129機であった。
前述した開戦時の主力艦戦がスキュア、1年後がスキュアとフルマーが半々だったのに比べ、2年後ではフルマーが完全に主力艦戦の座に着いたと言えよう。
さてさて3年目は?
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フェアリー フルマー |
第3節 3年目の戦い
地中海の戦いが始まると共に英空母が縦横無尽の奮戦を果たした事は前述したが、書き忘れていた事が二つある。
開戦時には予備艦であった史上初の空母アーガス(つまり世界で最も旧式と言う事で搭載機も20機に過ぎない)が改装されて再就役し、1940年7月には英海軍初の護衛空母オーダシティが竣工(既存商船の改装)している。
オーダシティは5537総tの小型艦で搭載機は僅か6機に過ぎなかったが、「商船からの改装艦でもなんとか飛行機を飛ばせるじゃないか!」と喜んだ英海軍は以降、護衛空母の建造に熱を上げ最終的に44隻の護衛空母を保有した。
しかしそのうち36隻は戦局が安定した1943年以降の竣工艦(残り8隻中1941年内に竣工したのは1隻だけ)であり、当面の話には出てこない。
さて英空母の活躍だがフランス戦艦ダンケルク、リシュリューを撃破したりイタリア駆逐艦ゼフィロ、パンカルドを沈めたくらいでは終わらなかった。
1940年8月22日にはイーグルが伊駆オストロ、ネボムを撃沈して戦果を拡大し、9月17日には到着したばかりのイラストリアスがベンガジを空襲して伊駆アキローネ、ボレアを撃沈する。
そして11月11日には言わずと知れたタラント空襲でイラストリアスが伊戦艦3隻を撃沈破し大殊勲を挙げた。
だが喜んだのも束の間、翌年1月のエクセス作戦(マルタ補給)に投入されたイラストリアスは同月10日、ドイツ軍急降下爆撃機の猛攻を受け大破してしまう。
イラストリアスの傷は深く年末まで米国で修理する事になった。
かくして地中海の英空母は前年の11月24日に竣工したフォーミタブルが地中海に到着する1941年3月10日までアークロイヤルだけとなった。
当時、イーグルは船体修理中、フューリアスは航空機輸送中、ハーミスは大西洋で独のポケット戦艦アドミラル・シェーアの捜索任務中だったからである。
まあ搭載機12機のハーミスや22機のイーグルでは最初から大きな戦力ではないが。
この到着したばかりのフォーミタブルが最初にやった大仕事が3月26〜28日のマタパン岬海戦であり、伊戦艦ビットリオ・ベネトと重巡ポーラを撃破している。
加えて5月15日、次なる装甲空母ビクトリアスが竣工した。
このビクトリアスが最初にやった大仕事が5月26日の独戦艦ビスマルク追撃戦で、見事に魚雷1本を命中させている。
地中海から急遽呼び戻されたアークロイヤルも2本命中させており功績はこちらの方が大きいが。
う〜ん、いいニュースだ。
英海軍空母部隊の未来がちょっと明るくなってきたぞ。
でも良い事ばかりは続かない。
なんと同月中にフォーミタブルがドイツ軍急降下爆撃機の猛攻を受け大破してしまうのである。
修理期間はこれまた6ヶ月に及んだ...
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